エイベックスのエンタメコイン設立は個人の働き方を再定義するものになる
エイベックスがブロックチェーンシステム構築
先日、エイベックスは、「エンタメコイン」設立を発表しました。エンタメコインの事業領域は、電子マネーの発行から管理、決済システムへの取り組みなどを手掛けるフィンテック事業です。
エイベックスが培ったエンタテイメント事業を基盤に、エンタテイメント関連の事業者にブロックチェーンテクノロジーシステムを販売する事業を目指しています。
ここでなぜエイベックスがエンタープライズ向けブロックチェーンシステムの販売や仮想通貨交換業まで、事業領域を広げていかなければならないかということを考えて行きたいと思います。
現在、エイペックスを初めとした、音楽業界や芸能界の事業モデルが大きく転換期を迎えようとしています。
CD販売全盛期のころでは、ライブとCD、物販という企業がアーティストをプロモートして収益を上げる事業モデルでしたが、今や、スポティファイのような音楽ストリーミングサービスや、インスタグラムの新しいプラットフォームを活用して個人でプロモートまでを手がけることができるようになってきています。
音楽業界の転換期
今までの、企業がアーティストの活動方向を決定して、育成、テレビ出演などを取り仕切る企業による集中型の管理は、企業にとっては都合がよく、独占して利益を獲得する手段だったと思いますが、これがインターネットを使った新しいプラットフォームの出現で通用しなくなってきているのは、音楽、芸能だけでなく、出版社も同列でしょう。
最近では、芸能プロダクションに所属しているアーティストと、個人でネットを基盤として活動するアーティストに二分されています。
後者の方が、新しいプラットフォームをすぐに試せるので、機動力の高いマーケティングを活用することができます。
企業でのプロモートでは考えれないライブ配信サービスの「投げ銭」という形で、収集を得ているアーティストも存在します。
それが、意味するところは、集中型芸能プロダクションに限界がきているという兆候にも感じます。
今や、芸能プロダクションは、CD販売の売上が落ち込む中、ドラマや映画と活動の幅を広げていますが、それでも収益が落ち込んでいます。
そんな時代だからこそ、事務所に属しているメリットよりも、自由に活動ができる個人活動のアーティストの選択肢が増えてくるのかもしれません。
組織に属さない働き方
そこで、企業に必要なのが、分散型組織という考え方です。
これは、ミュージシャンの中でもエッジが効いた個性をもっている人だったり、自らインフルエンサーで発信力がある人が集まるような場所を作り、必要に応じて、映像制作や、音楽販売をアーティスト自身が中心となって使いこなすやり方です。
企業は、アーティストの活動を支えるプラットフォームとなり、環境構築に専念します。
そして、アーティストは、自分の頭で考え行動します。分散型組織では、アーティストは企業の中の社員ではなく、全員が個人事業主という自主的な目的を持って活動することができます。
そのため、特に大企業にありがちな、会議などでの意思決定の遅さというものから解放され、スピードのある活動が可能になってきます。
企業を使いこなす生き方
そもそも、アーティストのような創造性の高い職業は、自由度を優先することで、新しい曲作りやアイデアが生まれるものです。企業のサラリーマン的な働き方よりも、個人事業主のような働き方の方が、合っているのではないかと思います。
そして、曲作りから、リリースまでを最短でファンに届けることで、さらにアーティストとファンとの温度差もなくなります。コミュニティーづくりも、最先端のITツールを活用しながら、自ら運営していく方が、活気が生まれるのはいうまでもありません。
実は、分散型組織という考え方は、ブロックチェーンテクノロジーが発展していくより前に予言されていたことでした。
時代の流れから辿っていくと、大企業というものが存在しない時代、もともと職業というのは、個人事業主が主体でした。例えば、職人の世界では、大工の棟梁主導で、一棟ごとにプロジェクトとして人が集まり、貢献度合いによって日当が支払われ、完成すれば解散といった雇用体系でした。
それが、いつしか大企業が誕生していく中で、サラリーマンとして雇われるか、親の商売を継ぐかという選択肢になってきました。競争原理が働き、大企業が有利にビジネスを進めるようになり、企業は合理化していきました。今や、大企業の割合も30%を超えてきて、企業の合理化にも限界が近くなっています。
コストという意味では、大企業に分があるのですが、大企業ばかりだと、個性的な商品は生み出せないようになり、新しいことを始めるということにどうしても保守的になってしまいます。
そこで、必要となってくるのが、個人事業主の存在です。
事業が、プロジェクト単位で進行して行く企業を渡り歩く働き方ができるようになれば、もっと世の中にイノベーションを生み出しながら、個人が自由に個性を発揮して働くことができるかもしれません。
これは、音楽という業界が、他の業界に先駆けて変化しているだけのようにも感じます。ゆくゆくは、音楽業界だけでなく、その他の業界も、会社組織を基盤とするのではなく、個人が中心のプロジェクト単位の仕事のあり方に変化して行くのではないでしょうか。
エイベックスは未来の企業経営のあり方
エイベックスの仮想通貨業進出の背景には、アーティストを支えるプラットフォームを先駆けて構築することによって、プラットフォーマートしての優位な位置を獲得しようとしているのと同時に、アーティストの活動を支援して音楽業界に活気を生み出し、より魅力的なエンターテイメントとしての底上げをしていこうとしているようにも感じます。
これには、単なる事業の収益化追求という目的だけではなく、企業の事業がアーティスト(人)を中心に設計し、アーティストの活動が世の中を面白く活気付けていけるエンターテイメントの醍醐味を発揮してくれそうな気がします。
将来的には、アーティストは自ら株式のようなトークンを発行して、ブロックチェーンをチケット販売にも応用できれば、今の転売などの問題のあるシステムから公平なチケット販売のモデルを構築できるかもしれせん。ファンによって運営されるようなコミュニティープラットフォームが生まれるかもしれません。
ブロックチェーンテクノロジーによって、企業はアーティストを環境支援して、より自由に活動し、そしてファンがもっとエンターテイメントを楽しみ尽くせる時代になると面白いなと感じます。
それには、働き方改革というネーミングがなんとも滑稽であったかのように、働き方の本質となる変化を音楽主導で巻き起こして行きそうな熱狂を感じるぐらいです。